『アラビアの夜の種族』

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

大変面白かったです。薦めてくださった方*1は後半でションボリしたようですが、私は後半のほうがカーっとなりました。
ものすごーく面白いのに、なぜかジワジワとしか読めない文章で、ズームルッドの語りよりもさらに遅いくらいのペースでの読了になってしまった。しかし古川文体はかっこいいなぁ。唐突に会話文に現れる口語体が気持ち良いよ。『ベルカ、吠えないのか』の感想の時に、この人の文体は歴史ものに合っている気がすると書いたんだけど、間違ってなかったな!(というか時系列的にはベルカのほうが後だっつうね!)(というか、今確認したら書いてなかったっつうね!)(きおくりょくってどこでかえますかー)
作者不明の『アラビアンナイトフッド』を翻訳しましたよ、という体裁の、壮大な騙り。その作品の存在そのも虚構なら、その虚構の作品中で語られる書物も虚構。そしてまたその中でも書物があり……、という構造だけでハァハァしてしまうのですが、なんといっても私がガビーン!と心打たれたのは


以下、ネタバレ! 臆さぬ者は反転ってこい!



ファラーとアーダムの決戦の最後。

優位に立っているのは、書いた人間ではない。書かれた人間だったのです。

でした。うひー。あついーーーーーー! なぁに、そのほとばしる「書物」への情熱は! と床を転げるいきおいでした。ほんと、こういう主張されると弱い。
そして、互いの尾を噛みあう蛇のような、物語の構造そのものの美しさ。いいわー。


もちろん作中作中作である、サフィアーンとファラーとアーダムの物語も面白くて(ファラーがジンニスタンに残ると告げたときは本当に胸が苦しくなった)、作中作であるアイユーブの物語も面白くて(どうするんだろううまくいくのかな、いや、いかないし!)(ていうか洗脳べんりー!)、なんかもう本当に仕掛けだらけでドラマだらけで、楽しい読書でした。

もちろん単純に、アルビノの美形ハァハァというキャラ萌えもいたしましたよ! でも私が愛するのはサフィアーンだわー。彼の純真さというか、彼の陽性が本物であると感じさせるのが本当にうまいんだ。
そして最後に、なぜか私を涙させたこの言葉を。

ファラー?

*1:というかid:reriさん