『さまよう刃』

さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)

重たいほうの東野圭吾。娘が理不尽な暴力によって殺された時、暴力をもって復讐しようとする父親は……という一行にまとめた説明の時点ですごい重い。珍しく、着地点がどうなろうと問題ないと思う小説でした。この小説の大事な部分は、過程にある。結果がどうあろうと。
こういうものを読んだときの常として、自分に置換して色々考えたんですけれども。私も私の家族が理不尽な暴力に晒されてしまったら、そして自分に手段があったら、復讐すると思います。そしてこの小説の父親に接するペンションのおばさんの立場であっても、やっぱり同じような行動をとるんじゃないかと思います。
この小説は、完全に少年加害者への懲罰のあり方を否定していて、これを読むと全面的に「そうだそうだ少年法なんているかボケ」という気持ちになるのですが、心の片隅で、宮部みゆきが加害者少年の側からも物語を書いていたらどうなっていたんだろうな、というよくわからない妄想をしたりもしました。いや、宮部でなくてもいい。宮部みゆきには、芯から悪である加害者、というものは書けない気がする。だから、東野に加害者家族の物語を、ぜひ、書いてほしい。この物語では、さもありなん、という加害者家族が書かれていたけれど。たぶん、普通の家庭に育った普通の少年だって、この物語にでてきた加害者たちのように育つ。自分たちの息子がひどいことをしたとして、被害者家族にひどい報復をうけたとしたら、残された加害者家族の物語はどうなるのか。読みたい。読みたい!
って、良心の痛みなき加害者の物語は、『ワールドイズマイン』にもう書かれていた。うむ。なるほど。