『くらやみの速さはどれくらい』
くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)
- 作者: エリザベス・ムーン,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/12/10
- メディア: 文庫
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「暗闇は光がないところのものです」とルウは言った。「光がまだそこに来ていませんから。暗闇はもっと速いかもしれない−−いつも光より先にあるから」
めちゃくちゃに面白かったです。エンタメ的なハラハラドキドキもありつつ、心にぐっと迫るようなこともある。素晴らしい小説。今のところ、今年読んだ中で一番。
物語は近未来。自閉症は、幼少期に治療を受けることで完治できるようになり十数年が過ぎている。そんな世界で、最後の自閉症患者世代として生きている主人公たち。彼らはそれぞれのもつ能力を評価され、彼らが仕事をしやすい環境の中(キラキラと回転する飾りが下げられており、隣にはトランポリン部屋があり、好きな音楽をかけられる)で、自立した生活を送っている。
満足した日々を過ごす彼らに、ある日、野心家の上司クレンショウが提案をもってくる。「すでに成人になった自閉症患者にも有効な治療法が発見されたので、治験者にならないか」と。そのためにかかる費用は会社がもつし、必要なだけの休暇を与えられる。
物語は2つの視点で進んでいく。主人公の一人称視点と、第三者視点。私達はだから、自立して生きている自閉症患者たちへの世間の態度を知ることもできるし、会社側(というか、その治験の話をもってくる上司クレンショウ)の思惑も、主人公たちの直接の上司オルドリンの活躍もわかる。そしてそれらを主人公たちがどう捉え、理解し、対処しているのかも。
「今の(自閉症の)自分」に満足しているのになぜ治療が必要なのか、それでもやっぱりノーマルになれるならなりたい、今自分に与えられてる能力は自閉症を治療することで失われるのではないか、今の自分を好いてくれている人たちは今の自分ではなくなった自分をどう思うのか、今の自分が好いている人たちのことを変化後の自分も好きだろうか。
自分を自分たらしめているものは、一体なんなのか。
治療を受けるのか否かという大きな問題はもちろん、いくつかの事件、恋、という丁寧につづられるドキドキの物語を読んでいるうちに大好きになる主人公ルウ。彼が幸せに生きる道はどこにあるのか。本気で一緒に考え、そして私なんかよりもずっとずっと聡明なルウがどんな結論をだすのか、早く知りたくてページをめくる手がもどかしい。そんな読書体験でした。
そしてその出した結論、着地点の素晴らしいことったら!!!!! Amazonのレビューをちらりとみたら、何人かの人たちが最後があっけない、と書いていたけれど、とんでもない! 私はものすごく心を揺さぶられました。
以下ネタバレ