『悪の華』 新堂冬樹

悪の華 (カッパノベルス)

悪の華 (カッパノベルス)

ひさびさに本を読みました。シチリア島を追われたシシリアンマフィアが日本でドンパチ物語。暴力とハードボイルドの世界でした。たぶん。
なんていうか、私はこういうマッチョな世界を書こうとしている小説が割と好きなので(少なくとも、年頃の女の子の微妙なキモチを表現しようとしている繊細ぶった本よりは100倍くらい好きです)とても楽しく読むことができました。情けは人を殺し、無情は人を助ける、とかなんとか言っちゃって、バシュバシュと人を殺す人が「冷獣」とか言われちゃって、なんていうか、なんていうか、メタな視点でも登場人物にドップリな視点でもかなりニヤニヤできました。し。筋立てとしてもわかりやすい対立などなど手に汗握るものがあって結構面白かったです。

ヤクザ小説はもともと割とすきなのですが。今回はなんといっても不破の、すげーキレ者設定なのに、そして実際利巧な立ち回りをしているのに、メタ視点の読者にはかなわないっつーか、どうしても受けに見えて仕方ないところが最強でした(さらりと受けと書いてみました。めちゃんこ強いしクールだしかっこいいけど、受けだよね、っていう感覚がはやく全人類共通の感覚になりますように)。
普通に読んで、絶対に不破の一枚上手を上海か福健のどちらかが行くと思ってたので、それがなかったのがやや肩透かし。でも、まあ、密航者の件と上海、福建、山王会、ガルシア、あたりのラインで小説として破綻しないギリギリなのかなー。
しかし、ガルシアのチームの描写量に対して、不破チームの描写がたりなくありませんか。そのくせ柏木だけクローズアップしているので、そのへんがアンバランスでした。最終決戦での思い入れがねー。どうしてもガルシアチームに肩入れして読んじゃうのに、ガルシアチームサイドの描写では中国人とか不破の思惑が見えないためにどうも輪郭がしっかりしないから、フラストレーションが。あそこは両視点必要だったのかな…わかるけど。
あと、柏木の美青年設定はホモファンゲットのつもりか!(無駄な邪推)
でも、こういう本って、必ずアレなのね。天使のような女が出てきちゃうのね。「こいつだけは汚しちゃならねぇ」みたいな。無垢な存在。その件の天使、マスミちゃん絡みのラストのほうはグダグダで残念でした。密航者強奪の各団体の思惑や動きの交錯を書いた時点で力尽きちゃったのかなー。まあ、でも、そこがメインというか、そこは面白かったのでヨシとしちゃおう。
ああ、あと、私は個人的に物語りの着地点はキチンと始点を受けていないとダメだと思っているので、ガルシアがマイケルへの復讐をどうしたのかにラストでまったく触れていないところは不満です。マスミで骨抜きになってあきらめたのか?それとも続編か?
つか、本のページ数も残りわずか。こりゃマイケルの件は「そしてオレたちの戦いは始まる!」EDか、ガルシア死亡EDだなーって思ってたら、守があんな思わせぶりなことを言い出すから、てっきり守はシシリアン・マフィアに連絡したんだと思ってましたよ。すごい興奮したのに違ってガックリ。