読書日記 『ZOO』 乙一

ZOO

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乙一の短編集。あっという間に読み終わってしまった。乙一面白いなあ。
私は短編集というものがどうも苦手で、それは個々の作品への感想と本としての感想というものをどう扱ったら良いのかがイマイチ判然としないからなのだけれども。
一番好きだったのは『落ちる飛行機の中で』書き下ろし作品。
すごくドラマティックで、ある意味でとてもわかりやすいというか、乙一的「おとぎばなし」な感じは少ないのだけれども、すごく印象に残った。たぶん単純に、私だったらこういう時どちらを選択するだろう、という置換がしやすかったからだと思う。自分を置き換えて物語を消化するのが好きなのです。
そういう意味で『SEVEN ROOMS』は、ちょっと「ううううう」となってしまった。私には弟がいるし。でも私きっと無理無理、とか思って。こわくて死ぬ、こんなの。いや、死ぬんだけども。てかチェーンソーかよ!という。
ああ、あと『落ちる…』の彼女の高校生の時の「トラウマな体験」ってのが気になる。まんまと気になる。大の男が吐き気を催すような経験てなに。普通の小説だったら、きっとこの「理由」の部分がキモになるだろうにねえ。そういうところをあえてスルーしてます!という主張が好きだ。
イマイチだったのは表代作でもある『ZOO』。ラストがどうもしっくりこないから。

乙一の書く小説の持つ温度が好き。残酷なグロ描写や命をなんとも思わないような描写が続くのだけれども、それを過度に嫌悪感を抱いて描写するでもなく、かと言って露悪趣味的に「グロいでしょ?」と押し付けがましくエンタメするでもない。すごく良い温度を持っている。温度というか、距離感、かな。でも根底に流れる「人間の持つなにか」を信じている感というものがこの人の作品にはあって、それはつまり美学ちうか(美学!)信念ちうか(信念!)とにかく、美しいって感じるものはこれですよ、という芯がブレないっていうことです。わ。ひどい文章を書いたな。

ああ、あと、今回特に感じたことがひとつあって、それは会話文の自然さ、というやつ。特に『カザリとヨーコ』で感じたのだけれども、
>「あんまりですよ!」と思った
とか、そういう文章がいかにも、で、すごく良い。うまい。小説の中の文章って、なぜか知らないけれども実際の会話とはかけはなれた言語を喋っていることが多くて、もちろんそこに疑問を抱いてちゃんと書こうとしている作家も多いのだけれども、どうも「自然に書こうとしている」感がプンプンスメルっている作品ばかりが目につく。(森博嗣のVシリーズなんて、その典型だと私は感じた)でも、この人の書く会話は違う。
これって、年齢とか世代かな、という気もする。たしか乙一って若かったような。若ければ良いというものじゃないけど、若者言葉を喋ろうとするオッサンが気持ち悪いように、言葉と世代は切り離せないからなあ。

と、とりとめがなくなってきたよ。
面白かった。1500円の価値はある。