『恍惚の人』 有吉佐和子

恍惚の人 (新潮文庫)

恍惚の人 (新潮文庫)

ボケ老人を扱った小説。書かれた時代が古いので、今の社会とボケ老人に対する施設などなどがどれだけ違うかはわからないのだけれど。
うわー身につまされる。ひたすらに、苦しい小説でした。献身的な嫁がこれまた辛い。無理だー私には無理だー。

しかし、一番印象に残ったのは後書きの


その意味で、本書は、ねたきり老人や地方の老人がとにもかくにも家庭の中で家庭の手によって介護されていた、古き、よき時代の最後の一幕を書き残したものということになるのであろうか。
という一文。おいおいおいおい、と言わざるをえない。この後書きを書いた人は絶対に、介護を必要とする老人を抱えて生活したことがない。
私の祖母は癌を患って余命半年と診断されてから10年も生きたが、その間で最も祖母にとっても家族にとっても賢明だったことは、良い病院(ホスピスちうの?)をみつけて長期入院させることができたことだ、と私は信じている。
未婚の叔母による、口先ばかりの「大丈夫?」とおぼつかない手付きでのオムツ交換はハタでみている子どもの私にも不安なものだった。誰が誰だかもわからなくなっていた祖母はいつも癇癪をおこしていた。祖母を怒らせずにオムツの交換ができたのは、母だけだ。そのへんが我が家の離婚の原因でもあったのだけれども、そのへんのアレコレは割愛。するとして。
とにかく、介護にはプロに任せてしまったほうが双方安心、という側面があることを、私は強く主張する。家庭での介護は時に、介護をしている家族の自己満足でしかなくなる。

しかし、小説の最後のほうの息子の発言、これは、何を意味するんだろう。若い人間は介護や老いに対して無関心。本人は一生懸命のつもりでも、そこには「自分もいつか辿るかもしれない道である」という差し迫った恐怖がない、ということの象徴なのだとしたら、悲しいことだ。

なんとも読後感の苦しい小説でありました。