『菊亭八百善の人々』 宮尾登美子

菊亭八百善の人びと

菊亭八百善の人びと

おもしろかった。やっぱり宮尾登美子はいいなあ。丁寧で。というか、この時代の作家はみな丁寧だ。丁寧っていうんじゃないか。安易な描写はしない。でも、伝わってくるものがある。うん、そんな感じ。


江戸料理の老舗に嫁いだ汀子の物語。
第二次世界大戦の影響で店を閉じていた料亭「八百善」は、8代続いた超老舗。伝統と面子をかたくなに守ろうとする隠居(であり舅である)8代目と、汀子の旦那である、ぼんぼん。昔ながらの瀟洒江戸料理が受けなくなってくる世の中の流れ。それらの間で悩み苦しむ汀子。


途中の料理薀蓄は、私にはさっぱりわからないんだけど。江戸前寿司がそうであるように、江戸の料理っていうのは、手をかけてナンボの世界であるんだなってことはよくわかった。
そうか、いまもてはやされているこれは、京料理か。
素材の味ずばりで勝負するのは関西風なんだなー。
私の嗜好ももちろん京料理寄りであるようになってしまっているんだけれど、江戸料理、なくならないで欲しいなあって読了する頃には想ってしまった。
そしたら、あとがきに「八百善」は実在するって書いてあってびっくり。そ、そうか。その道では有名なお店なのか。実話をベースにしているのか。無知ってこわい。


<以下ネタバレ>


そんなわけなので、八百善を知っている大人の皆様は当然八百善が辿った道を知って読んでいるわけで。でも、私は知らずに読んだわけで。もう、店が復興できるのかどうかもわからなくって、ずっと「なんでなにもしないの?!」って思いながら読んでいました。
でもそういうものだったんだろうなあ。
最後のほう、まさか店をたたむことになると思わなかったから、汀子と一緒にちょっとほうけてしまった。んでもってその後追い討ちをかけるように「9代目を継がせない!」だもんなー。
いまでも八百善はあるそうだから、結局継いだんだろうけど。この後、どうやって店を再建したのか、小鈴はどうしたのか、すごく気になる。


ああ、でもやっぱりこの小説で一番は、汀子と小鈴との淡い恋だよなああ。今じゃあ考えられないような価値観だけれど、私の母親くらいの時代にはこんな感覚がまだしっかりと生きていたように思う。
決して実らない恋。お互いに想っていることがわかっていて、いじけあってみたり。ああ、はがゆくて、切なくて、なんともいえないなあ。
婚礼の日も、切り株のシーンも、すごくドキドキした。


いいものを読みました。