『空中ブランコ』 奥田英朗

空中ブランコ

空中ブランコ

イン・ザ・プール』の続編。精神科医伊良部の物語。
面白かった。前作よりも、こちらのほうが数段面白かった。軽いし、薄いかもしれないけれど、今の私にストンと届いた。届いちゃったものはしょうがないよ。笑って泣いてしまったよ。
毎度伊良部がなにをしでかすのかは楽しみ。表題作とかは、どうでもいい。ヅラの話と、最終話。これがよかった。


以下ネタバレふくみんぐ


ヅラの話はちょっと笑ってしまった。ヅラ、というそのくだらなさに。小学生がウンコとか言われると笑っちゃうのと同じレベルの笑いなんだけど、それを本でやるっていうのがなんかおかしくてしょうがなかった。ば、ばかだなー。と満面の笑み。
んでもって、最終話。
もう、なんてったって、中島さくらの青臭いセリフがグッサリと突き刺さってしまってどうにもならない。たぶん、私のメンタリティーにも関係しているんだと思うんだけれど。青臭いよ!と一笑にふすことはできない。
泣けて、泣けて、泣けて、しょうがなかった。


ここで報われないとこの人だめになる、だから神様お願いですからヒットさせてくださいって天に手を合わせるんだけど、それでも成功することのほうがはるかに少ない。
そうなんだ。この世には努力が報われることのほうがまれなんだ。


ちょっとだけ自分語り。
私は塾の先生をしていたときに、いつも生徒たちに言っていた。「受験は努力が報われる、人生において数少ない公平なチャンスなんだから、今死ぬ気でがんばっておけ」と。
これは高校生の頃の担任(以前日誌を引用した人)が私たちに言った言葉でもある。もちろん当事者である当時の私たちや私の生徒だった子どもたちはまったくもって実感できていないことだから、その言葉の意味をかみ締めるのは大人になってからになるのだけれど。でも、そう年少者に言わずにはいられない先生の気持ちが、痛いほどに今わかる。
別に世を斜めにみているわけじゃない。嘆いているわけでもない。すねる気はさらさらない。なぜなら私は努力せずして今の気持ちいい場所を確保している恵まれた人間だから。
でも、と思う。でも、言わなくちゃいけない、と思う。今なら間に合うんだよ、と、教えてあげたい。そして、どうかなにかを勝ち取って、つかみとって、ほしい。


中島さくらのこのセリフに対して、愛子という作家の物語そのものは、割と陳腐に終わる。このセリフ以上のドラマが本編にない。マユミが感想を言ってくる、というのはとても効果的だけれど、なんていうか、予定調和だ。
それでも、私はこの作品を評価します。いいもん読んだ。


ただ言葉だけが、絶望を教え、希望を教える。