『アフターダーク』 村上春樹

アフターダーク

アフターダーク

これが、春樹?と疑うような作品。パスタがない!マラソンしない!泳がない!
というのは、まあいいにしても。
たしかに個々のフレーズの中には春樹らしさもあって、付箋を貼りたくなるようなセリフもあるんだけれど、「会話」としてなんだかしっくりきていなかったり、納得のいかない感じ。
「われわれ」っていう俯瞰視点もよくわからないし、エピソードを投げ出しすぎ。俯瞰してクロスを描くというか、そういうトラフィック的なことをやっているのはわかるんだけど、どうもうまく処理できているとは思えない。ていうか、直裁的すぎやしませんか。そのくせよくわからないテレビ描写。うーん。
もしもこれを、原稿用紙とか、ワープロに打ち出しただけの状態で読ませられて「春樹が書いたんだよ」って言われても信じることができないんじゃないかという気がします。



以下ネタバレ


喪失と回復っていういつものテーマなことはもういいとして。安易じゃないかな、これ。どうしたの。いったい。エレベーターのエピソードは良い話だし、高橋は春樹的なキャラだと思うけど。
なんだろうなあ、この投げ出し感。マリとエリの安易な解決方法も納得いかないし、他の人たちのおさめかたもいい加減な感じ。ていうか、おさめてない。ひどい。別にすべてのエピソードにオチがついている必要はまったくもってないし、現実においてはオチなんてものは永遠につかないわけだけれど。
でも、それにしてもダメだ。せめて主軸であるマリの話がもうちょっと深みがあったら面白かったんだけど。大体において、喪失が弱いし、若さ特有の軽い絶望や理想や、っていう春樹のうまかった部分がまったくみえない。


年をとった、っていうことなのかな。残念です。