I have tried to find right way, again and again.

終電で中野駅に降り立つと、なにやら怒鳴り声がした。高いその声は不明瞭で、何を主張しているのかまったく聞き取れなかった。だから私は、てっきり浮浪者が騒いでいるのだと思ったのだ。つい数日前に「浮浪者がなにを言っているのか不明瞭なのは歯を磨かなくて溶けてしまうからだ」と教えてもらったことを思い出しながら、私は騒ぎの中心を横目で見ながら通り過ぎようとした。
まず目に入ったのは、3人の駅員。そして、黒人男性。中心にいたのは、褐色の肌に安っぽい金髪をした外国人の女性だった。彼女は泣きながら何かを叫び訴えていた。その顔は真っ赤で、ぐしゃぐしゃに崩れて猿のようで、とても醜かった。
私が乗ってきた電車は、その日中野駅を出る最後の電車だったのに、彼女はその電車に乗らずに何かを叫び続け、その対象であるらしき黒人男性は「冗談じゃないよ、呆れるぜ」というようなあの独特のジェスチャーをしていた。
私はそのまま、彼らの脇を通り抜け、階段を降り、改札をくぐり、タクシーに乗って自宅まで帰った。
「ドウニカシテヨ!ヒドイヨ!」
階段を降りる私の耳に、その言葉だけが聞き取れたことを思い出す。ああ、彼女が叫んでいるのは日本語だったのか、と思った途端、なんともいえない気持ちになった。
たぶんこれは私の勝手な感傷で、彼女は今頃は友人に派手に怒りをぶちまけ、明日には笑って暮らしているのだろう。そうはわかっていても、あの、美人なわけでもない、どこかの国からきた女性は、こんな寒い夜に異国の片言の言葉で何かを泣き叫ばなくてはいけなかったのだと思うと、つらかった。彼女の言葉がまったく聞き取れなかったということが。彼女の顔が醜く歪んでいたことが。
うまく言葉が見つからない。
とにかく、私は悲しかったのだ。彼女が母国を出るときにはきっと、あんなふうに泣き叫ぶ自分を想像もしなかったであろうことが。


勝手な感傷なことは、わかっている。