『誰か』 宮部みゆき

誰か ----Somebody

誰か ----Somebody

ひさびさに読んだ宮部でした。時代ものもファンタジーも完全スルーしてきたので、数年ぶりというイキオイじゃないかと。面白かったです。やっぱり宮部は小説うまいんだなぁ、と思います。宮部みゆき的人間描写というか宮部みゆきが描く「人間像」というものは常にあまりにも宮部的すぎる、とか読んでいないときには思っているのですが、読み始めるとぐいぐい読んでしまう。
いつも宮部の小説に出てくる子ども(少年)の描写が気になる(いろいろな意味で良い少年すぎる)のですが、今回は子どもが4歳児だかなんだかの桃子ちゃんだけで、それもうなるような上手さだったので手放しに絶賛します。
うん、ぱっと考えつくような不満点はありません。

姉妹の確執というのがなんだか珍しいなーと思いました。というか、宮部小説の人物というのは大概「にくめない」というようなイメージがあったから不思議な感じがしたのかもしれません。なんだかんだ言って仲が良い姉妹になるんだとばかり思って読んでいたので、浜田をめぐる云々にはびっくりしました。着メロでわかっちゃいますけれどもね。まさか、なあ、という感じ。梨子さんのほうはもちろんのこと、聡美さんのほうもなんだか全面的に好きになれるキャラクターではなかったなぁ。
肝心の梶田さんの事件をめぐる謎に関してはすっきりと納得のいくものでした。聡美の記憶の謎に関しては、これまた先読みができるというか、誘拐したのが女性という時点で「預けられたんじゃないか…?」って思いますけれどもね。その否定要素となる「トイレに閉じ込めた」というやりすぎ感のある行動に関する説明がちょっと甘いかなぁ。あんな状況にあったら、絶対に子どもをそんな目にあわせられないと思うんだけど。そのへんは、父親を殺して埋めてもらった体験がないのでわかりませんが。それよりも、その前フリとなった家政婦がベッドに子どもをくくりつけた話のほうが動機としてはいかがなものか。なんかたぶん実話でこういうことがあって、小耳に挟んでネタにしたんだろうなー感はあるのですが。

ちなみに最後の最後を美空ひばり車屋さんで落としたところがすごく好きでした。あ、もしかして、会長も梶田さんになにかあったのかな、となんとなく勝手な想像をしてみたり。
ああ、そうか。本編内では自身の描写がまったくない梶田さんの人となりがおぼろげながら見えてくる。それが宮部のうまさなんだなー。披露宴に来て欲しいと告げたんだ、というところではジワっと涙が出てきました。
この主人公と奥さんでシリーズ化とかできそうだな、と思いました。もし出たら買いますよ。義父、家庭環境、氷の女王、編集長などなど脇役ふくめ、一作でつかい捨てるような設定じゃないように思えるので。