『シャングリ・ラ』 池上 永一

シャングリ・ラ

シャングリ・ラ

残りページが少なくなってくると物語りをまとめるための語りになってきてしまって退屈になる、というのは「物語」の宿命的な問題なのだと思うのですが。これは最後の最後まで一瞬たりとも退屈させないエンタテイメント小説。面白い! 面白いよー!
とにかく、盛り沢山。ある意味で緩急はあまりないのかもしれない。ずっとずっと高密度。アクセル踏みっぱなし。文章がまたあんまり手触りの良い文体ではないところがミソだなあ、と個人的には思います。直進だから猛スピード出してるんだなーあの電車って思って眺めていたら微塵もブレーキ踏まずに直角にカーブ曲がりきっちゃったよ!!的な興奮。
未来の世界経済は、炭素排出量を基準として回っていた。日本政府は、東京上空に巨大な空中都市(フロートテンプルよりでかいよ!)を作って都民を移住させた。地上は闇雲な緑地化によってジャングルと化し、人々は空中都市に住める選ばれし層と、地上で酸性の雨に打たれながらなんとか暮らす忘れられし層にわかれている。日々ジャングルの炭素吸収によって炭素経済社会を生き抜いている東京を舞台に繰り広げられる、未来を切り開くための闘い。SFでオカルトな超大作。身分格差、渦巻く陰謀、生まれながらにして運命を背負っている少女。くーー!
以下、ネタバレ感想

一番のお気に入りは美邦さまです。
というか、國子はあまりにも運命を背負った主人公すぎちゃっててあんまり人格見えないし、草薙に至ってはイザナミイザナギさせたいがためだけに出てきたんだろ、お前。という描写の薄さで、感情の移入のしようがない。からな。
人間ドラマ部分は完全に美邦さま中心でしたね。そしてまんまと、まーんーまーと、小夜子、ミーコ、美邦さまの関係に泣けて泣けて。特に、気化爆弾から人間の盾が美邦さまを守るところなんて「爆弾の威力はどんだけなの……」という疑問を感じつつもホロホロ泣きました。
しかし、涼子が内閣総理大臣ごときで満足しているわけがないので、京都の御所にいって小夜子たちに意地悪したりするんだろうな……あ、でもなんかいま想像したら、それもそれで平和だった。
いやーしかし、オカルト方向にいくとは思っていなかったので、固有振動をとめるために人柱とか、ヘクサグラムとか、正直一瞬うって引きました。面白かったけど!
しかし、本当に魅力的な男性っていうものがいない本だったなー。女性ばっかり。卑弥呼の国の本だものな。ミイラはなんで卑弥呼じゃなかったんだろう……。皇居関係ないからか…。
脳内で思い描いているドゥオモの画像が、生きているみたいに息づいていて、なんていうか、「あ、こういうのが脳内に浮かぶってことは面白かったんだな」って自分で実感しています。
たいへんに満足!