『オルタードカーボン』リチャード・モーガン

オルタード・カーボン

オルタード・カーボン

お、おもしろかったー。ハードボイルドSF。
27世紀、人は魂をデジタル化することに成功している。肉体はスリーヴと呼ばれる魂の入れ物であり、デジタル化された魂はバックアップによって蘇ることが可能となる。実質的な不老不死の実現した世界。
ただし、金持ちにとっては。
魂の再生は、首の付け根のスタックと呼ばれるメモリーカードみたいなもんさえ無事ならばできる。けれども、死んだ人間のスリーヴを保持することも、新しいスリーヴを手に入れることも、魂のバックアップをとり続けることも、莫大なお金を必要とする。
最初、このスリーヴとスタックという設定の時点でゴーストktkrとハァハァしたのですが、当然のようにある貧富の差、実質的な不老不死を手に入れることができるほどの金持ちのメンタリティーのありかた、そしてなによりも、かつては他の誰かの魂が入っていた肉体(スリーヴ)に、他の誰かがダウンロードされるということの残酷さ、に、私はガツーンとやられました。おもしろいーーーーー。貧乏人の美しい娘の肉体(スリーヴ)を金持ちが買い上げて自分の肉体にしちゃうんですよ。ほいでもって、貧乏人は安い人造スリーヴだったり、人種はもちろんのこと、性別すら違うスリーヴだったりをあてがわれて再生されるんですよ。そして、カトリック教徒は魂の再生を禁じているとかも、面白いーー。
あれですよ、殺人事件がおきても殺された人を再生させて証言させちゃうんですよ。ほら、そうなると、完全犯罪って、どうやるの?って感じになってくるでしょう? わくわくするでしょう? 『生ける屍の死』と同じくらいわくわくしました。わくわく。
色々と肩透かしな点も多かったんだけど、でも私はとても楽しめました。あ、妙にセックス描写が激しかったのが予想外だったかな。拷問シーンもひどい(死んでも死んでも再生させて拷問し続けられる)ので、そういうの苦手な人にはダメかもしれない。『独白する〜』を読んだあとだったこともあって、私は眉間にちょっとコジワを寄せる程度で読めました。

最後サラじゃなくて、オルテガとああなって終わるとはなー。
実は、前半と後半で、なにかどこかがチグハグなような印象も残っているんです。でもそれがなんなのか明文化できない。ううううん。前半で予想していたよりも、コヴァッチが恋愛野郎だったからかしら? でもハードボイルドって、基本的に恋愛野郎だからしょうがないですよね(偏見)
あ、ひとつには、エンヴォイ時代の上官=カワハラに、最終的には救われるというか、良い感情を持っているもんだと前半で思い込んでいたのが原因ではあるかもしれない。どこをどう読んだら、と思われるかもしれませんが。ほら、軍隊時代の女上官とかって、たいてい色々あってなんだかんだで好きーみたいなことになるじゃないですか。
でも、オルテガとの別れのシーンも、ミリアムとの別れのシーンも、とても良かった。うんうん。
いっこだけ物語上の不満を言うなら、トレップがなぜカワハラを裏切ったのかがご都合主義にみえる、ということです。でも、続編にトレップ出てくる気がするなー。いいキャラだもんなー。
あ、あともいっこ不満あった。エンヴォイの特殊能力が便利すぎ。特に痛みを遠ざける関係。あーあれは薬の影響のほうが大きいんだっけ? まぁとにかく、痛みを感じないようにできすぎですよ、コヴァッチさん!と思いました。
「肉体はただの魂の入れ物である」という前提に根ざした物語の、この結末は、とても好みです。
続編は火星絡みだそうで。今回火星関係の説明が全然なかったので、楽しみです。エンヴォイ時代の話とかもそのうちに出るに違いない。
しかし映画化かー。何年後か知らないけど。うーん。脚本に恵まれますように!