『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女

まいった。なんて可愛い本なんだ。
読み始めた当初は「乙女」のあまりに小説的な可愛さに辟易して斜めに眺めていたのに、なんだかいつのまにかすっかりとその可愛さの虜になってしまった。いや、彼女に限ったことではなく、この物語そのものがもつ可愛らしさに、すっかりやられた。
最後までページをめくってみれば

これは私の大嫌いな恋の物語であった!ということになるのだけれども、寓話的な物語も、その雰囲気にピッタリの語り口も、何もかもが可愛くてなんかもーすっかり骨抜き。いいよ恋愛小説でも。いいもんはいいよ。
だって例えば乙女の人物造形はあくまでも小説的な可愛さであってまったくもってリアリティーとかないし、これを真似たフシギちゃんとか生まれてきたりしようもんなら蹴り飛ばすであろうこと必至なのに、愛らしいんだもん。「なむなむ!」なんて言ってんじゃねーよこのタコきもいんだよ、って、思えなくなってたんだもん。
うん、そう。このお話は出て来る人たちが良かった! 樋口さんはちゃんと面妖な人だし、先輩の内面も見事だし、パンツ大番長は愉快でありながら必死というのが実によくわかるし、李白さんの存在は寓話性を高めているし、寓話性が高いからこそ色々はまるという必然性もバッチリだし、文句つけどころがない!
評判の良い本を褒めるのは、自意識とかアレとかアレとかがアレしちゃっている私にははなはだ不本意なのですが。面白かったものはしょうがない。読み終わってから、そのあまりの清涼感と暖かさと愛しさと切なさと心強さとに「かわいい……」とつぶやきながら涙しそうになったんだからしょうがない。
願わくば、これをお読みの皆様が「やっぱり褒めてるから手に取るのをやめよう」とかなりませんように。
なむなむ!