『夜愁』サラ・ウォーターズ

夜愁〈上〉 (創元推理文庫)

夜愁〈上〉 (創元推理文庫)

夜愁〈下〉 (創元推理文庫)

夜愁〈下〉 (創元推理文庫)

ついミネット・ウォルターズと名前がごっちゃになりますね、このひと。今一生懸命「サラ・ウォルターズ」で検索しました。どじっこもえー。
というわけで、超超超期待して読んだ新作だったんですが。期待の仕方を間違えていました。『半身』『荊の城』と、立て続けにすごく面白いミステリーを書いていたからてっきりそうだとばかり……。
みんな!これはミステリーじゃないから気をつけて!!
それさえ心得て読めば面白い本だと思います。第二次大戦のイギリスを舞台にした、同性愛者たちの物語。戦後からスタートして、彼らが今の人間関係を築くに至った根本にある1941年という時代にもどっていく物語構成。
面白いんだけれど、その構成がまた!私を!誤解させた原因!「いつになったら世界観がひっくりかえるんだろう……」とワクワクしてしまったよ……。
そして私はこの人の同性愛をテーマとした小説を読みたいのではなくて、同性愛をモチーフとして書かれたミステリーが読みたいので、出版関係者諸氏には今後ぜひとも帯にミステリーか否かを明記して……でもなぁ、前2作も、半分以上進まないと何が謎なのかどこがミステリーなのかもわからないような構成してあってそれが面白かったからなぁ……えーとでもやっぱり「これはミステリーじゃないですよ」ってわかるようにしてほしい!
以下、具体的に内容の感想をうだうだと

作中唯一のノーマルカップルであるヴィヴとレジーの過去がひどい! ひどいというか、ノーマルカップルの男性であるレジーをああも冷酷で思いやりない人に描写するところや、それに対してヴィヴが愛想を尽かさない(けれども本当は色々なことに疲れていてヘレンとの時間に慰めを見出している)ところが、いくらなんでも主張が勝ちすぎている感がして辟易しました。
ケイやミッキーが互いに持つような思いやりや空気をああいうふうに描くのはすごく良かったけれど。
あと、ダンカンを慰めるマンディさんの台詞がとてもとても良かった。けど、なぜ今一緒に暮らしているのかは描かないんだなぁ。そこが残念。ダンカンがフレイザーに惹かれているっぽいところとか、すごい気になる。
この本は、過去へ過去へと遡っていくことで、人の関係にはそれぞれ起因というものがあることを物語っているわけですけれども、私は彼らのこれからを読みたかった。もちろん人生は続く限り終わりのない物語で、彼らのこれからの物語がどうなっていくのかはわからなくて、起因はあれども終結はない、というのがこの「現在の状況」は投げっぱなしの構成の意図だとは思うのですが。