読書日記 斉藤美奈子 『読者は踊る』

読者は踊る (文春文庫)

読者は踊る (文春文庫)

とても面白い。ひとつのテーマにそって、毎回数冊の本を読み、比較して批評している書評本。
今まで書評というものは読まないようにしてきたのだけれども、友人に勧められて読んでみた。読んでよかった。
書評という言葉のもっているイメージが難解なこともあって敬遠してきたのだけれども、この人の文章はすごくわかりやすい。
比較する、という観点からの書評が主体なので、こちらのココが良くてこちらのココがダメ、という書き方が多いのだけれども、その具体例と理由に説得力がある。
時折「言うまでもなく」とか主観に基づいた記述があるけれども、評論とか批評とかなんて、結局のところ、その批評家の批評を信用するかどうか、という好みによるものなんだから、別にいいや、と思えてくる。
そう。批評というものを考えた時に、必ず問題になってくるのが「客観性」とかいうものなのだけれども、そんなものはあるわけないのだ。
「この批評家の言っていることは私と嗜好が(思考でもいい)近いから、この批評家のオススメはきっと私も好きにちがいない」
といった鑑賞方法以外に、批評家の文章を読む方法はない。
そして、この斉藤美奈子という人は、具体例をあげた上での比較書評という形をとることで、客観性の樹立にある程度成功していると言っていいのじゃないだろうか。
批評家の批評に完全なる客観というものはありえないが、斉藤美奈子のこの書評には、幾許かの客観性を感じた。と。そういうことです。

そしてなによりも大切なのは、べらぼうに面白かった。
書評なんて、読むのが退屈なものと相場が決まっていると思っていたのだけれども、一冊をひさびさに一日で読了してしまった。

しかしなんというか、この本で紹介されていた本のうち、私が読んだことのあるものは『少年H』と『聖書』(しかもどの聖書だかはわからない)と『アジアン・ジャパニーズ』ぐらいしかなかった、というのはどうなんだ。