『おめでとう』 川上弘美

おめでとう (新潮文庫)

おめでとう (新潮文庫)

センセイの鞄』が好きだったので、読んでみた川上弘美2册目。短編集。
この人の文章は、ひらがなの使い方が独特で、それが独自の間の抜けたリズムを引き出している。私は、その間が、割と好きだ。でも、その間ゆえに、この人の描く世界に入ってしまうまで、どうも居心地の悪い感じをしながら読むことになる。
それはそうと、この人の描く女性の気持ちというのが良くわからない。淡白すぎて掴みどころがない。特に女性どうしの交流のスタイルが、あまりにも私の世界と異なっていて、ふうん、という感じでしか受け取れないでいる。
だから、本当だったら(?)あまり好きになる作家ではないのだけれども、なぜかまた他の本も買おう、とか思っている。

「彼女は、今は、いないよ」竹雄が前を向いたまま、言った。
ふうん、そう。落ちつきはらって私は答えるつもりだったが、一瞬、タイミングを誤った。「ふうん」の「うん」のところだけが妙に高い声になった。

夜の子供(p.86) より

ちょっとした言葉尻の音、それが、その場の雰囲気を変えてしまう。その言葉の持つニュアンスを変えてしまう。本当に変えてしまうかどうかは別として、「しまった」と感じる。そういう微妙なニュアンスを描写するのが、この人は本当にうまい。
この本にかかれているのは、そういうニュアンスの数々だ、と私は思う。バカな私は、派手な事件がおきて、派手に感情をゆさぶられて、という小説を好むのだけれども、この人の本は、これはこれで悪くないな、と思わせる。
これを下手糞が真似すると、webに溢れる何もおきない内面描写ばかりのクソ創作になるんだろうな、という余計なことも、思う。