読書日記 『からくりからくさ』 梨木香歩

からくりからくさ (新潮文庫)

からくりからくさ (新潮文庫)

いい!すっごくいい!ネタバレもなにもないので、ザックリと。
私はどちらかと言うと、女性作家の作品というものが苦手で。それはなぜかと言ったら「女性らしい細やかな感性」というものを描写しようと皆必死に想えて仕方がなくて恥ずかしくて読めないからなのだけれど。
この、華美でない言葉たちが、も、もーのすっごく良かった。なんて染みる言葉だ。人物の言い回しとか、すごく不自然で、このスーパーナチュラル指向の現在において、時代がかっているような言葉遣いだったりして、読み手としては引いてもよさそうなものなのに。
ああ、細やかな情緒って、こういうことだったんだ、と今さらながらに気付いた。今まで、読まず嫌いしていたのかもしれない。
読み終わったら、なんだかありふれた、うさんくさい表現だけれども、自分の中の何かが洗い流されたような気分になった。なんて素晴らしい本なんだ。
以下、内容をふまえて。
この本を読みながら、3回泣いた。
泣くとは思ってもいなかったから、自分で驚いた。電車の中だったし。
ひとつは、蓉子が、紀久のために糸を黒く染めるシーン。引き受けないわけにはいかない、という心にも、それでも、自然の色ではない黒を出すということは苦しみ以外のなにものでもない、ということにも、とにかく切なくて、泣いてしまった。
ふたつめは、紀久が、マーガレットに「すごいことはここでも起こっている」と言うシーン。もう、これは、単純に、超えがたいものを超える瞬間のドラマといものに私が弱い。
そして、さいご。ラスト20ページを残して電車が目的地に着いてしまったので、そのまま寒いっつのに駅のホームのベンチで読んでいたら、電車ではこらえていたようなところでも涙が流れて流れて、も、ほんとうに、ラストは泣きっぱなしだった。彼女達の作品が、仕上がった、ということへの単純な感動(人間にとって物を作る喜びは根源的なものだと私は思う)。与喜子の父親の言葉。ああ、今、そのシーンのページを見返しても泣ける。肉親の間の業ってものは、本当に深くて切なくて複雑で、心を動かすものだなあ。
もう一度『りかさん』を読み返そうか。