読書日記『葉桜の季節に君を想うということ』 歌野晶午

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

良書。読んでいて震えるような衝撃はきませんが、よく考えられた丁寧な構造をしていて、好感が持てました。
ただ、文章がところどころ荒いように思えました。他の方の感想を読んでいると誰もそんなことを言っていないので、これは私だけが感じていることなのかもしれませんが、時折ちょっとひっかかる描写があったのです。私はそういうことがあるとのめりこめないので、今年のナンバーワンにはできません。
今手元に本がないので具体的に引用することができませんが、隣の部屋でカップルがセックスをしているのを聞きながら寝なくてはいけない、というシーンのラストの1文とか、すごく気になりました。えーと、〜と思った。〜と思って寝た。みたいな感じで重複する同じ描写が似たような文末で書かれていたのです。全体的に文章のリズムも悪いし。
これはこの人の文体なのか、それとも私がおかしいのか、他の作品はどうなのか、気になるのでこの人の他作品をいくつか読んでみようと思って言います。読まないほうが良いよって言われたけど!


<以下、ネタバレします>


同じように、会話文にも不自然な感じを受けました。これは小説でよくあることなのですが、普通の大人の会話は書けていても、言葉遣いの乱暴な少女や少年の言葉になったとたんにこちらが赤面するようなありえない発言をしていたりしたりする、というアレです。
ただ、これに関してはメイントリックというか、実は老人たちでしたーじゃじゃーん!という仕掛けにつながるところなのでなんとも言えず。特に気になっていたのは妹の言葉遣いで、でもその妹の設定が、おきゃんな老婆のようなので、意図的なのかもしれません。そこまでできるような文章力にある作家とは思えないけれど。おきゃんて。
私がどうしても理解できなかったのはサクラを愛してしまう主人公の気持ちでした。一体どこが魅力なんだろう、この女の。サクラが老婆と知ってからは、あーそらこんな婆ちゃんは可愛いわな、と思わないでもなかったですが、どうも女性が決定的に魅力に欠けていたように思います。ここは「それでもこの女に俺は惚れた」という重要な要素に説得力を与えるか否かの瀬戸際なので、惜しい。
個人的に好きなのは、蓬莱会の女性社員が裏切るところ。うんうん、世の中そう甘くはないよね、とうなづきました。それまでの探偵ごっこがあきれるくらいに無謀かつうまくいきすぎだもん。
って、こう考えていくと、そんなに良い作品でもないような気がしてきました。でも、「え!孫?!」という瞬間はなかなか楽しかったし、悪くなかったと思っています。