『黒冷水』

黒冷水

黒冷水

あっというまに読了。イマドキの高校生らしい内容、イマドキの高校生らしからぬ文章力。とかいうあおりをどこかで読んだ記憶があったんだけれど。そんなに文章力に秀でてるってわけではないように思われる。ひとつひとつの文章は悪くないけど、文の組み立てが甘い。構成で救われているというか言い訳できる部分があるから次回作に期待。
兄弟両方に「うわこっちのほうがひでえ」「いやこっちがひでえな」と読者の視点というか感情移入先を操れているのはすごい。うまい。
私は肉親への確執というものに共感できないタチなのだけれど、そんなに鬼気迫るというか胸に突き刺さるようなアレではなくて単純に一種のホラーとしての扱いなので、あっさりと楽しんで読むことができた。


<以下ネタバレ含む>


兄弟の確執。陰湿で面白い。一度は暖かい気持ちになるのが結局相手を目の前にしてしまうと冷えていってしまうという描写を黒冷水としたのはすごく上手い。ただ、二回目の「やっぱりむかつくぜ!」的描写は不要だったなあ、とか思ったんだけれど。
そうか、作中作だったか。そう言われてしまうと文章のつたない部分も青野の不自然さも絵に描いたような弟への感情の復帰も何もいえなくなってしまうなあ。ずるい。でも、まあ、実際の兄弟の確執は解決をみることはないのだ的しめかたは正しいというか納得のいくものだったからいっかな。
でもたぶん青野を描ききれていないのは作中作だからという理由ではなくて、実際に作者の周囲に具体的モデルが実際にいないからなんだろうな。青野だけがプカプカと浮いて現実離れしていたよ。