『蒲生邸事件』 宮部みゆき

蒲生邸事件

蒲生邸事件

私には、この本の主人公並に2・26事件に関する知識がない。あれば、もっと楽しかったんじゃないかな、という気がする。正直言って、あまり面白くなかった。宮部的人物造形を私は全面的に支持はしないんだけれど、でも、それが宮部作品の魅力のひとつであることは間違いないと思う。それが、この本には不足していたように思える。
主人公しかり、ふきしかり、平田しかり、貴之しかり、珠子しかり。
ただ途中にはさまれているミステリー部分は謎の提示の瞬間にぞくぞくっときた。蒲生大将閣下は、殺されたのか。
宮部の特徴のもうひとつが、風呂敷をたたむ際の手際のよさがあると私は感じていて、終わらせるために終わる小説が多い中で、この人の小説は、そのへんがすごくカッチリしていて、読んでいて安心できるというのがあるんだけれど。
今回も、そこは健在。


以下、ネタバレ



蒲生大将は殺されたのか、だとしたら、誰に。なぜ。という謎の解決は、そんなにサプライズを秘めてはいないものの、満足。平田の「人間として生きるためにこの時代で生きるんだ」という主張も満足。
でも、なにか喰い足りない気がするのはなんでなんだろう。
ふきとの果たされない再会っていうのが一つ大きい気がする。そこは果たして欲しかったなあ、という。でもここで再会してしまえば美しくないのだ、というのもよくわかる。
うーん。
タイムトラベルものだとは思ってもみなかったから、そのへんは楽しかったな。過去に介在しても、歴史そのものに影響を与えることはできない、というのも面白かった。
でも、全体的に期待はずれ。かな。もっともっと重くしてくれてよかった。