『死神の精度』 伊坂幸太郎
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/06/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 148回
- この商品を含むブログ (657件) を見る
毎度伊坂の小説には極悪人だとか災厄だとか、普遍的に忌むべき存在、「絶対的な悪」というものが登場することが多いというのは衆知かと思うのですが。私はこの伊坂小説における「絶対的な悪」という存在がすごく好きです。「この世に絶対というものなどない」とか、「悪か善かは価値観の相違でしかない」とか、そういったくだらないことを全部ふっとばした価値観を与えてくれるなんて、なんて安心して読めるんだ。素晴らしいよ。価値観の多様性なんてもう飽き飽きだ。
ちょっと前から伊坂はこの「悪」というものを端的には書かなくなっていて、私はそれを寂しく思っていたのですが、今回はそれを素直に受け入れることができました。
この本は、人間界に送り込まれた死神が仕事をこなしていく短編集です。死神が関わる死は、事故や災厄による突発的な死。病死や老衰などのゆるやかな死ではなくて「なんで、どうして、こんな運命に」と思うような死。それは死神が調査をして「可」と判断したから起きる死なのだそうです。そして死神たちにとっては、人間の死よりもミュージックのほうが遥かに大事。
というわけで、この本のネタバレ感想。 一冊の短編集として、非常に満足です。
世の中には、どうしても逃げようのない神の巨大な悪意というものが存在しているけれども、でもだからといって世界に絶望しなくていい。私は伊坂を読むたびに、そう思います。
それにしても、伊坂は死神の語彙のなさのような、さりげないクスっと笑いがうまいね。下手にやったら寒かろうと思うんだけれど、ちゃんと面白い。