『リンダリンダリンダ』


リンダリンダリンダOFFICIAL WEBSITE http://www.linda3.com/

東京 シネセゾン渋谷 tel:03-3770-1721
いよいよ9/16(金)まで!!
11:00/13:35/16:10/18:45 入替制 (9/08(木) 18:45の回 休映)

もう、とにかく良かった。
物語はいたってシンプル。文化祭まであと3日だというのに、軽音の女の子バンドの主要メンバーである恵とリン子が喧嘩をしてしまう。留学生のソンさんを巻き込んだりして、いなくなったギターとボーカルをなんとか埋めて、少女達は文化祭の本番に向けて猛練習を始める。というだけのもの。
別に、喧嘩してしまった二人の感動的な仲直りシーンもなければ、これが先輩にとって最後のステージかもしれないの的熱い青春物語もない。恋か友情か的な選択も、留学生の異文化問題やイジメ問題もない。
文化祭にむけて一生懸命練習はしているけど、でも、それが本当に等身大に「文化祭に」むけてがんばっている姿でしかない。ダラダラしていてなかなか練習が始まらなかったりするし、練習しなくちゃいけないってわかっていても好きな男子と一緒にやっているクラスのクレープ屋をぬけられなかったりするし、徹夜でがんばって練習しすぎて本番の開始時間にスタジオで寝てたりする。だから「できたーできたー!いまのよかったってー」と彼女たちが喜びあう出来の演奏を聴いても、ちっとも「よく」ない。やっぱり下手っぴ。3日しか練習してないしな。ソンさんの歌は魂に響くような歌声なわけでもないし、天才プレイヤーがいるわけでもないし。
でも、高校生の女の子バンドが学園祭で弾くのって、こういう姿だーーーって本当に、考えるまでもなく感じちゃうのですよ。楽しそうで気持よさそうで。うん、本当に、良いとしか言い様がないなぁ。
私は軽音部では全然なかったけれど「ああ、いたいた、こういう子」「そうだよね、こういうことがあったらこうなるよね」ということが沢山あって、観ていて懐かしくて楽しくてたまらなかったです。冒頭のぶっきらぼうなビデオ撮影の台詞とかも「ぐ、ぐがー高校生でビデオの台本とか書くとこうなるよなあああああ」と高校演劇のことなどが頭によぎったりして、もう。
以下、私が好きなシーンを思い出しながら適当に羅列します。

私が一番好きなのは、ソンさんがボーカルになるシーン。部室でブルハを聴かされていつのまにか泣いちゃうソンさん(と、その顔を映さないという演出)も良かったけれども、なんといってもボーカルをソンさんに決めるときのいい加減っぷりがいい。次に通り過ぎた人をボーカルにしようぜーという気軽でふざけた提案も良かったし、本当にソンさんに声をかけちゃう恵ちゃんの嫌味のなさも良かったし、それに「ハイ!」「ハイ!」とすっげー適当に答えちゃうソンさんも良かった。

屋上にいる中沢先輩良かった。キャラとしては一番好きかもしれない。いたよなーこういう怖そうだけど本当は気が良くて適当でかっこいい先輩。「漫画喫茶」「ケイが最初の客」すごい良かった。
繭ちゃんも一見ありえなさそうなんだけど実はリアルなキャラだーと思いました。なんかちょっとオカルト好きそうというか湿度高そうな雰囲気もってるんだけど、でも実はサッパリしていて、不思議な雰囲気の子。文化祭でつなぎに歌い出したときにあんまり上手なんで「うひゃーこりゃすげーンでもってたしかにブルハって感じじゃねー」と思っていたのですが、あとで確認したら歌手の湯川潮音さんでした。スピードグラファーのEDの人だったー。
たぶんこれは大きなテーマだったんだと思うんだけれど、ソンさんを通した日韓交流のあるべき姿というか。カー!そう言っちゃうとヤーな感じですね。ちゃうねん。そんな説教臭いことはなにひとつないねんで。でも、やっぱりスルーしてるわけじゃない、という、その距離感が映画として私にとっては理想的でした。日韓交流部という形でクソみたいな展示をするだけの予定だったソンさんにむかって、顧問らしき先生が「楽しみましょうね、楽しまなくちゃ」みたいなことを言うんだけど、どこに楽しむ余地があるんだ!その展示の!!というクソっぷりで、それが良かったです。顧問の先生、良い人なんだろうけど、なにもわかってねーんだなーという。黒板に太字で書かれた「3時半〜体育館でライブ!」という内容をポカーンと見上げている姿はなんかちょっと切なかったけど。ソンさんはちゃんと自力で楽しむことを見つけたよ、先生。
望ちゃんがソンさんに言う「ソンちゃん、みすぎ」も良かったなぁ。この映画のなにがすごいって、恋もなければ留学生でもなければ喧嘩もしていない、無口で一番存在感がなくなりそうなベーシストの望ちゃんにもきちんと存在感があったことだと思います。望ちゃんだけじゃなくて、大江くんもマッキーも、全員にちゃんとオウチがあって今までの人生があって普段の教室での姿はこうなんだろうなーという「透けて見える何か」がある。キャラが生きてるっつうのは、こういうことを言うんだぜ?
ずーっと、ただ彼女たちの日常をおもしろおかしく追いかけているカメラが、本番が始まってソンさんが歌い出したときに、はじめて彼女たちから離れて誰もいない校舎や下駄箱を映すカットが入るんだけれど、そのソンさんの声をバックにした景色が泣けて泣けて泣けて、私は涙が止まりませんでした。で、ああ、これは、もう自分の手の中からすり抜けてしまった青春を思って泣くための映画なんだなーと思いました。だから若い人には不向きかもしれない。あるいは学校というものに思い入れのない人には。

私は学校を好きでも嫌いでもない普通の高校生だったけれども、でも、きっと、だからこそ、グっとくるもののある良い映画でした。ブルーハーツのことが大好きで、それなりに思い入れもあって、だからこそこの映画が気になって観たかったのだけれども、最後のスタッフロールはヒロトの歌声じゃなくてソンさんの歌声を聴いていたかった。