『容疑者Xの献身』 東野 圭吾

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

やぁ、これはすごい。面白かったです。各所で本年度ナンバーワンと言われているのもよくわかりました。本屋でみかけたら迷わずに買って損はありません。
いやー。しかし。詳しい感想を書くことによって、妙な偏見や思い込みをもってしまうともったいないので「絶対後悔しませんて!」という以上のことが書けないなぁ。この一文ですら叙述トリックを疑っちゃうんじゃないかしら、とか思えてしまう。いや、そんなサプライズじゃないですよ。
ところでこの小説の探偵役とも言える物理学社の湯川先生は……。物理学で湯川って言ったら秀樹だろ、と言われましたけれども。ミステリ界隈でしたら薫ですよ、ね? とか、考えて、いたら、脳内でいつのまにか石神のビジュアルが茂木健一郎さんに……ッ!! だって、ほら、某大学出身だし!(湯川さんは違いますけドー。ドー)(茂木さんの専門は数学しゃありませんけドー。ドー)(じゃあ全然ダメじゃん)
ま、そんな具体的なビジュアルを脳内に描きながら読んでいたら、ますますもって面白かった、ということです。

いやー。泣いたーーー。ミステリでこんなに泣いたのは死神の精度いらいじゃなかろうかしら。って割と最近ですね。ドンマイ!
とにかく、なにもかもがカチっとはまるべきところにはまる感じが素晴らしいなぁー。
これを読みながら私はもちろん「私ならば石神の献身に対してどうするか」ということを考えていたのですけれども。
やっぱり、自首はしないと思うのですよ。「この重荷を背負って生きていくことこそが私に課せられた罪なのだ」みたいなことを考えると思うのですよ。靖子さんと同様に。それは、どうなんだ。人の献身的な愛に甘えて生きて行くことにはならないのか。本当に、それで、いいのか。うーん、わからない。答えは出ないよ。出ないよー。
ところが、そこに、娘の存在。カチ。です。カチ。はまったー! っていう。くー。くーーー。そうだよなー女子中学生には堪え難いよ。工藤とのデートで見せた反発なんかもきちんと繋がってきていて、本当に良い! こういう答えを用意する東野って、すごい! 靖子さんが、石神をちょびっと鬱陶しく思うあたりなんかも好感が持てました。
それでもやはり、最後の石神の咆哮は、本当に身を切られるような思いで読みました。今だけはこいつに触れないでやってくれ!という湯川の言葉も、もう泣けて泣けて。
最終的な結論は靖子に任せたとは言え、湯川が望んでいたのはこういうラストだったのだと思うのですが。石神は望んでいなかったよね。嗚呼。そこにあったのは、絶望なんじゃないだろうかしらん。彼はこれで留置所にいようがどうしようが純粋に数学のためだけに生きて行くというある種の脳内楽園の住人になれなくなるのじゃないかしらん。
それが「人を殺める」ということへの罰だと言えばそうなのですけれども。
もしもできることならば、情状酌量というやつが適用されますように。そして、石神が、自分のやったことは無駄ではなかった、と心から思えますように。
前半のミステリー部分も、後半のドラマ部分も、余すところなく最初から最後までずっと面白い本でした。
間違いなく本年度ベスト3に入ります。