『ナイフ』重松清

ナイフ (新潮文庫)

ナイフ (新潮文庫)

なるほど。痛かった。めくってもめくってもイジメのことが書いてある。
学生時代に、イジメられたこともイジメたこともイジメられることを回避するために媚びたこともイジメを傍観していたこともない人なんて、現代日本にはいないのじゃないかと思います。そういう記憶の触れたくない部分に容赦なくきりこんでくる本。だけれども。基本的に救済は用意されている。のかな。こっちを読んでから『エイジ』を読むべきだったなぁと思います。でも、私はイジメに関しては割りと色々自分の中で折り合いをつけ済なので大丈夫でした(なにがだ)。
しかし、これを読んで、私の時代とはずいぶんイジメが変わったんだなぁと思う部分と、変わらないなぁと思う部分があって、そのへんが感慨深かったというか。今の子は大変ね、なんていいたくないけれども(いつの時代だって子どもは大変で、だから大人になりたいんだ)今、ちょうどイジメられてる子にとってこの本はどう映るんだろう、と思わずにはいられませんでした。あと、親ね。ちょうど今、自分の子どもがイジメられてるんじゃないかとオロオロしながら何もできずにいる親。たぶん、親が一番これを読んでつらいんじゃないのかな。読まないほうがいいですよ!
しかしそれにしても。あまりにも読んでいて自分が中学生の頃に思っていた色々なことが描かれていることに驚愕しました。言葉にしちゃいけないとか、行動に移しちゃいけないとか、よくもまぁこんなに描けるもんだと関心ですよ。読んでいる間、中学生一人称のものなんて、中学生が語っているとしか思えなかった。
個人的に一番印象に残っているのは、キアイもコンジョーもない少年と父親と、それを見ている少女の物語。私はひたすらに父親にイラついて読んでいるのに、中学生の彼女がちゃんと色々理解できていて尊敬しました。尊敬してから、これ中学生女子の手記ちゃうで!本当はオッサンが書いてるんやで!と我に返りました。
エビスくんの話もいい話だったけど、なんていうか、漫画的すぎるというか。この本の中では異色なくらいにいろいろな登場人物が記号っぽく役割を果たすので、それがちょっと気になったかな。
表題作であるところのナイフはつらい。ほんとつらい。やめてほしい。
そんな感じで、またしても自分に引き寄せすぎる短編集でした。面白かったけれども、心に余裕のあるときに読まないとつらいと思います。物語の中に救済は用意されているけれども、現実には救済なんて滅多にないから。ないことに絶望してしまいそうな人は読まないが吉。