『パニックの手』ジョナサン・キャロル

パニックの手 (創元推理文庫)

パニックの手 (創元推理文庫)

面白かったです。SFなのかな、短編集とは知らずになんとなく衝動買いしてみたんですが、大正解。やったぜ。
何度も同じモチーフがでてきて、「具現化した夢想」だとか「とりかえしのつかない過去の自分」がそうなんですけれども、それらはあくまでもモチーフで別段「とりかえしのつかない過去と折り合いをつけて涙」とか「とりかえしのつかない過去の報いで不幸に」とかではなくて、ただ淡々とそこに生きてきた軌跡として存在しているだけで、物語的な決着をつけないところが大変好きでした。
あと、中篇でも短編でも長さに関係なく、読み始めと終盤とで物語の軸がねじれるような感覚を味わうのが不思議で面白かったです。小説というのは読み始めのあたりで「これはこの人がこうなっていく物語なのだろうな」という漠然とした予想をだいたい頭に描くと思うのですが(たとえば、このダメな主人公が少女と出会って変化するのだろうな、とか、この主人公の視点からみた変人の家政婦の奥底に眠るなにかを描くのだろうな、とかその程度の漠然とした話です)、それが見事に裏切られる。別にはっきりと意図して「これはこうなる!」と思っているわけではないので予防することもできず、毎度びっくりしていました。
あー面白かった。これはかなり楽しい読書体験だったぞー。