ミュージカル「テニスの王子様」Advancement Match六角feat.氷帝学園

※これは、初日、9日昼の部、を鑑賞した後に12日昼の部を観ての感想です。ご了承ください。
※ネタバレしています。
それまで観た中で、一番面白かったです。
(長くてきもいのでたたみます。その2)
初日には初日にしかない、お客さんも初見、役者たちもお客さんが入った状態は初めて、という初めてづくしの独特の空気があるものです。私は通常お芝居を観るときには、なるべく楽日近くにするようにしています。それは、完成度が全然違うからです。お客さんの前でやってみて初めてつかめるようになる間というものが、絶対に芝居にはあります。それが、初日では作れない。お客さんが入っている状態で何度かやって初めて芝居というのは完成するんです(と信じています)。だから、通常は避けます。
けれども、テニミュは違いました。誰よりも早く六角編を目にしたかった。それに、新キャスは本公演全32ステージの間に、絶対に成長するんですよ。その成長のスタート地点を見ておかないわけにはいかない、と思っていました。だいぶキモいこと言ってますが大丈夫ですか、ついてきてますか。どんどんいくよー!
というわけで、初日にいっていたのですが。もう、自分がすごい前のめりなの。何が起きるの?今度のキャストはどうなの?って全身がスポンジのようになって幕があがるのを待っているんですよ。でもって、たぶん客席がみんなそう。
たぶん、今の日本の演劇界で、テニミュのような形をとっている公演は他にはないのじゃないかと思います。つまり、「テニミュ」というジャンルに固定客がついていて、キャストが入れ替わっても何日も通うつもりのファンによってチケットがあっという間に完売してしまう、そういう形式。
何が言いたいかというと、つまり、テニミュにおいて、客席の全員が新鮮な驚きと共に舞台を共有することができるのは、初日だけなのだ、ということです。


このことは9日の昼の部を観たときに思いました。
通常の舞台というものは、たいていにおいて一見さんが観るように作られています。だから、何度でも同じネタをやって同じように受ける。受けたり受けなかったりしたら「今日のやり方のなにが悪かったのか」を比較して考えることができる。同じように受けるようになったら、間や言い方が完成した、と言えます。私が上で書いていた「通常の舞台では初日を観にいかない」理由とリンクしてきますね。
ところがテニミュにおいては、初日以降はその観客の多くがリピーターです。後半にいけばいくほどそうなることでしょう。そうすると客の大多数は一見さんにだったら受けるはずのところを、待ち構えることになるわけです。笑いというものは、たいていにおいて予想の裏切りなどから来ますから、これは大変に不利だと言えます。
今回の公演で言うならば、手塚の過去の過酷な練習に感化された3人のパートですとか、「油断せずにーいこーお」とだけ歌って消える手塚ですとか、そういう部分です。間違いなく、本当の意味での爆笑は初日にしか出なかった。二度目以降の笑いというのは「くるぞくるぞ」と待ち構えて「やったーきたー(きゃっきゃ)」という笑いになるわけです。
それが悪いこととは言いません。そうではなくて、特殊だ、ということです。そしてこれでは、一発芸的なリピート性の低い笑いを一見のお客さんのために「練る」ことができない。
何度観ても面白い、という笑いは確実に存在しています。油断せずーにいこーお、などはそちらに分類されることでしょう。あれはとても演劇的な演出の面白さで、色あせることはありません。けれども、何度も観て毎度笑うタイプではない笑いというものが、どうしても居心地の悪いものとして浮いてしまわざるを得ないことになります。ダビデのダジャレ部分などがその最たるものです。
で、それが、12日には、すごく解決されていたのです。(やっと本題にたどりつきました)(もう誰もついてきていない予感)


具体的に言えば、手塚を見習おうとする桃。初日と9日には、切り株にむかって

「今日はこのへんまでにしといてやる!」「逃げんなよ!」
(切り株は、このためだけに袖から観客の目の前でスライドして出てくるものなので、動くものだということを観客は知っています。だから、一見さんだけなら、これだけで面白いものになる、が、二度目からも爆笑は難しい、という典型的なパターンです)

とだけ言っていたのですが、12日には

「今日はこれくらいにしといてやる!」「5時にここに来い!」「逃げんなよ!」

となっていました。これがこの日だけのものだったのか、数日前から言っていたのかわかりませんが、この「5時にここに来い」という台詞のアホさ加減の面白さをアドリブで入れられたのだとしたら、相当のものだと私は思いました(ほめすぎですか)(でも感動したんだ!)。
そしてもう一つ、これは完全にアドリブだったと思うのですが、12日の昼の部は大石がカミカミでして。客席で観ながら「ああ、集中力が切れてきてるんだな」と思っていたのですが、手塚が九州に旅立つことになって緊張している大石に乾が「緊張しすぎだ、大石」と言うはずのシーンで「噛みすぎだぞ、大石」とつっこみを入れたんです。あ、あどりぶいれたーーーーって爆笑しながら感動で泣きそうになりました。(おおげさですみません)(母の心なもので)


つまり、簡単に言ってしまえば、アドリブやダジャレの差し替えが行われていた、ということです。これは、すごいことだと思うのですよ。ああ、この子達はもう成長している、って実感しました。あれだけの大舞台、ほぼ初めてという子たちが、アドリブを入れるようになる。余裕がなければアドリブなんて入れられないんです。そしてもちろん、余裕があるということは初日当初の緊張感が薄れてきているということでもあるので、慣れ、疲労、その他で噛みやすくなったりもするということなのですが。
で、この「噛みすぎだぞ、大石」という台詞によって、その後大石が噛むたびに客席がクスクスと笑うようになってしまい、一部芝居を壊した部分もありました。まあ、そこまでは計算できない。それでも私はあのアドリブは評価に値すると思っています。
(ただ、私が観た回はDVD収録回だったので、DVDのことがちょっと心配です。アドリブの面白さというのは生の面白さだから、DVDには完璧版が入っていたほうがいいんじゃないかしら……(またしても母心が発動しました)。DVD収録日、ということだったから、夜の回とうまく編集して繋いで解決とかだと安心なのですが)


初日を観たときには、青学メンバーの中の不二と海堂の経験者チームの際立ちっぷりがすごいなーと思っていたのですが、12日にはだいぶ差が縮まっていたのじゃないでしょうか。
もちろん、アドリブを言えるようになることだけが成長ではありません。私が本当に一番感心したのは、不二&菊丸v.s.樹&佐伯ペアの試合が格段に聞き取りやすくなっていたことでした。試合中の台詞というのは、ボールの音、音楽、テンポ等々があって、台詞が流れやすい傾向にあります。ちゃんと発音しているし、ちゃんと言っているんだけど、なんか流れてしまって聞き取れない、ということです。それを、ほんのすこーしだけテンポダウンすることで解消していました。たぶん演出サイドからダメだしがあって直したものだと思うのですが。
で、そうなると経験者のはずである相葉くんの台詞の滑舌の悪さが……。がんばれ! あいばっち!「ダメだよボクをフリーにしちゃ」は超重要なんだからもっとちゃんと言え! と、このように、相葉くんの滑舌に注目がいったりしている時点で新キャスたちがんばった!という気持ちになるわけです。えーと、つまり、同じ土俵に立ちましたよお前達、という。
ふー。だいぶ長くなりました。初日を観ておいて本当に良かったです。彼らは間違いなく確実に成長しました。それをリアルタイムで見届けることができた。満足です。というか幸せです。
この後、彼らは大阪→名古屋で、もう一度初見の多くのお客さんの前で演じることになります。テンポを崩さずに、余裕もいいけど、ほどよく緊張感もたもって、是非がんばっていただきたい。私が次に観られるのは名古屋の千秋楽なので、チマチマと描いた感想絵などをアップしながら27日を待つとします。