『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

少しだけ未来の、ライトSF設定なお話でした。
面白かった。すごーーーく面白くて、ぐいぐい読んだ。構成がなんてったって好み*1だった。でも、この読後感は一体なに……?
『魔王』と『砂漠』を足したみたいな、いや、いっそ犬養でも出てきてくれればこんな感覚にはならなかったのかもしれない。とにかく、なんというか、『砂漠』のような青春時代が透けてみえるようにとても巧妙に描かれているからこそ、寂しくて切なくて、やりきれない思いに囚われた。
たぶんでもこれはアンハッピーな物語ではないんだと思う。

青柳くんが助かるのかどうか、本当にハラハラしながら読んだし、そういう意味では最高に面白かった。キルヲの危うさとか、すごくよかった*2
樋口さんはわかってくれた。助けてくれる人たちがいた。信頼できる人がいるというそれだけで人生は悪いものではないのかもしれない。そういう意味での希望はあった。伊坂的希望世界。青柳くんのことで「大きな何かの組織」に協力せざるをえなくなった人たちだって、ちゃんと誠実だった。
でも、青柳くんは逃げおおせて、何が残ったの。そう思わずに、いられない。顔を変えて、それまでの人生を捨てて、それでも生きていくことには価値がある、とこの小説は言っている。わかってる。でも、あまりにも多くの人が死にすぎる。森田くんの死がつらすぎる。その死は、青柳くんのピンチをより切羽詰ったものとして語るための、ファーストフードサークルに参加していた人たちが青柳くんのピンチを即受け入れるための、駒に過ぎない死なのではないの。
カズの彼女が「カズはサークルを潰しちゃったこと、本当に申し訳ないってよく言ってた」という主旨のことを言った時、泣いてしまった。あの頃の仲間が、故郷なんだ。
故郷を殺すな。
故郷を、殺すなよ、伊坂。
すごく読後感のつらい本だった。
20年後の日本では、誰も青柳くんが犯人だったとは思っていないと明示してくれている部分は私にとっても救いなのだけれど。
マッコウクジラと海で出会ってしまったら、逃げるしかない。


あとね、ここだけの話ですけど!


最後の「たいへんよくできました」のスタンプ、私は腹が立った。
私は伊坂的なベタさが好きなんだ。だから「だと思った」は良かった。でもこれはない。これはないよ。


関係ないけど、青柳くんと言えばわれわれ界隈では塁斗さんなので読みながら若干困りました。若干ね。

*1:ラッシュライフ推しなので!

*2:感想めぐりをしたらキルヲかわいいよ派が一定数いるようでびびりました。こええよ!