『時生』 東野圭吾

時生 (講談社文庫)

時生 (講談社文庫)

本屋で見かけて、なんとなくフラっと購入。そういう本のほうが積読よりも先に読まれるのはいつものことです。
面白かったです。最近そればっかり言っているような気がしますが。気持ち良いツボを押してくれる物語でした。大きな筋としてはある種ベタな(だからこそ気持ち良い)展開なのですが、そこにはさまれた部分が「どうなるんだー」なので安心しつつドキドキという感じ。正直納得いかない部分もあるのですが、それでも一気に読まされてしまった。おもしろかったーと言って本を閉じることのできる部類でした。
しかし、翻訳SFとか読んでいる合間に読むとあまりにも読みやすい文章で驚くなぁ。

拓実がとにかく腹立たしい。もちろんその腹立たしさは作者によって仕組まれたものなのだけれども、それにしたって腹立たしい。なんて思慮が浅いんだ!
あと、過去にいったトキオくんの言動がわりと軽い。でもこれはわざとというか、だから軽快なのかなーと思うので、ま、いいか。どうも胡散臭いというか、嘘っぽい爽やかさが漂っているように感じてしまうのですけれどもね。
最大に納得がいかないのは、暴走族がかけつけて助かるシーンです。金網越しだっつーのに助かるところも、あの場所が特定できて駆けつけることができるっつーのも納得がいきません。説明があったとは言えかなりひっかかりました。
あと、トキオが岡部を連れて逃げちゃうところかな。行き先が、読者は描かれた範囲内でしか世界をみれないから、消去法であの家になるけれど、それに拓実が気づけるかどうかって、賭けとして分が良いとは思えないなぁ。
でも、本筋というか、トキオが生まれてよかったよ、と告げるところとか、拓実が産みの母親に感謝の言葉をのべるところとか、ぐっときました。そいでもって、思い切り想定の範囲外だったトンネル事故のときのトキオの動きがね。すごく良かったです。うん。
そして、なんてったって、ラストの一行が、わかっていても、泣けるのです。